ベトナム進出で失敗する日本企業の共通点

ベトナム進出で失敗する日本企業の共通点

―「やらない勇気」が最良の投資になることもある

 

ベトナムは、間違いなく成長市場です。

人口は約1億人。経済成長率は5〜6%水準を維持し、インフラ整備も急速に進んでいます。都市部を中心に生活水準も着実に上がっており、感覚的には30〜40年前の日本を思わせる局面にあると言ってよいでしょう。

実際、ベトナムには日本では当たり前になっている便利なサービスや商品が、まだ十分に普及していないブルーオーシャンと言える分野も多くあります。日本での事業実績や成功体験を持つ企業にとって、経験を活かして挑戦できる余地がある市場であることは事実です。

しかし同時に、ベトナムは日本企業が最も勘違いしやすい市場でもあります。

「成長している国=売れる市場」

「日本で成功したモデルは、そのまま通用する」

こうした前提で進出を決めた企業ほど、現地で想定外の壁にぶつかり、静かに失速していきます。失敗する企業には、業種や規模を問わず驚くほど共通したパターンがあります。努力不足ではなく、構造的に負ける進め方を選んでしまっている、ただそれだけです。

以下では、現場で繰り返し目にしてきた「負け筋」を整理します。


1. 「ベトナムは安い国」という思い込み

これは、ほぼ例外なく失敗の入り口です。

  • 人件費が安い → もう昔の話
  • 物価が安い → 都市部では誤り
  • なんとなく儲かりそう → 根拠ゼロ

現在のベトナムは、「安い国」ではなく「競争が極めて激しい新興国」です。

特にホーチミン市やハノイでは、人件費・家賃・広告費・物流コストは年々上昇しており、「コスト優位性」を前提にした事業設計はすでに成立しません。価格競争に巻き込まれた瞬間、日本企業の勝ち筋はほぼ消えます。

さらに見落とされがちなのが、本当の競合は日本企業ではないという点です。実際にぶつかる相手は、ベトナム企業・韓国企業・中国企業。中でも韓国企業は、商品開発・価格設計・マーケティング・スピード感が別次元で、ベトナム市場を「戦略的に取りに来ている」動きが顕著です。

ベトナムは品質も評価しますが、最終判断は依然として価格の比重が大きい市場でもあります。

「日本製=品質が高い」は通用しても、それが購買に直結するとは限らない

「良いのは分かる。でも高い」——この一言で終わるケースは珍しくありません。


2. 市場調査を「資料」で終わらせる

失敗企業に非常に多いパターンです。

「一応、調査レポートは取りました」

しかし、その調査で

  • 誰に売れるのか
  • 実際にお金を払う人の反応はどうか
  • 見積を出して無反応だった理由は何か

まで説明できるでしょうか。

印象的だったのは、ある日本人の担当者の方が「市場調査」としてガールズバーの女性にサンプルを配っていた例です。もちろん、彼女達に話を聞くこと自体が悪いわけではありません。ただ、彼女たちはベトナム消費者の代表ではなく、高価なお酒を開けてもらう立場であれば、本音ではなく“場に合わせた気持ちの良い回答”が返ってくるのは自然です。

ベトナム市場は、想像以上に階層差が大きい国です。富裕層・中間層・低所得層で、買える価格帯も重視する価値も購買判断の基準もまったく異なります。商品や価格帯に合わない層に調査をしても、結論は必ずズレます。

ベトナムでは、資料よりも「反応」がすべてです。

売れるか売れないかは、実際に提案し、価格を出し、断られて初めて見えてきます。数字が動かない調査は、経営判断の材料ではなく、ただの安心材料になりがちです。そして、その安心感こそが次の失敗を静かに呼び込みます。


3. 「現地パートナー任せ」で丸投げする

これも失敗率が非常に高い進め方です。

  • 代理店に任せれば売れる
  • ローカル企業は市場を分かっている
  • 日本人が出なくても回る

現実は違います。

日本語が話せるベトナム人社長の人脈を頼り代理店契約を結んだものの、ほとんど活動されず、売上が立たないまま時間だけが過ぎたケースもありました。

代理店のやる気以前に、問題はここです。

  • そもそも、その商品はベトナムで売れるのか
  • 代理店が動くためのマーケ予算はあるのか
  • 価格・条件・ストーリーは整理されているのか

これらが曖昧なままでは、どれだけ人脈があっても販売は広がりません。

売れない商品を売れる代理店は存在しません。

初期フェーズでは、誰が意思決定者なのか、なぜ「検討します」で止まるのかを、日本側が理解していない限り改善は起きません。代理店は魔法使いではなく、増幅装置です。土台が整っていない状態で任せても、結果が出ないのはある意味当然です。


4. 会社設立=進出完了と思っている

これは典型的な順番ミスです。

  • 法人設立
  • 口座開設
  • オフィス契約
  • スタッフ採用 ……その後、売れない。

ベトナムでは、会社は手段であって答えではありません。売れるか分からない段階で固定費を積み上げるのは、自爆に近い行為です。「とりあえず法人を作ってから考える」という判断が、後戻りを難しくします。

ただし、設立後でも立て直せるケースはあります。

机上調査で「需要はありそう」と判断して設立したものの、営業が動かず悩んでいた企業が、弊社に市場検証の依頼を頂き、ターゲットを絞った実アプローチを行ったことで複数の商談が生まれました。同時に多くの企業に断られましたが、断られた理由を分析した結果、ローカライズの方向性が明確になり、事業を微調整しながら継続できる形に整っていきました。

重要なのは、会社を作ることではなく、売れる形に近づけることです。


5. 日本の成功体験をそのまま持ち込む

日本での成功体験は大きな資産です。ただし、そのまま持ち込むのは危険です。

日本とベトナムは似ている部分もありますが、意思決定の前提、価格感覚、購買行動には違いがあります。現地市場では、常に比較され、値踏みされ、合わなければためらいなく断られます。「良いもの=売れるもの」ではありません。

どこを変えれば伝わるのかを翻訳し直すことです。


6. 「撤退」を失敗と捉えてしまう

最大の失敗は、撤退そのものではありません。やめ時を見誤ることです。

正しい進め方はシンプルです。

  • 小さく試す
  • 反応を見る
  • ダメならやめる

これは失敗ではなく、合理的な経営判断です。

小さく始めれば、当初の仮説が間違っていても方向修正できますし、現地需要に合わせてローカライズする余地も生まれます。それでも相性が合わないなら、一度やめるのは賢明です。

一方で、最初から大きな投資(法人・オフィス・採用・固定費)を積み上げると、「やめる」判断そのものが極端に難しくなります。撤退すべきタイミングを過ぎて事業を引き延ばし、傷が深くなるケースを何度も見てきました。

また、「ベトナムで何とかしたい」と考えていた企業が、検証を通じて「今は日本でやるべきことがある」と判断した例もあります。ベトナムでの挑戦が、日本側の組織を一丸にし、国内営業の再強化につながった、という話もありました。

つまり進出の価値は、ベトナムで売れるかどうかだけではなく、**自社の課題を浮き彫りにする“経営の検証装置”**にもなり得るのです。


まとめ

成功企業と失敗企業の差は、能力ではありません。違いは一つだけです。

成功前提で突っ込むか、判断のために小さく試すか。

ベトナム市場では、夢よりも冷静な検証が価値を生みます。

やることより、やらない決断のほうが利益になる場面もある。

それを理解した企業だけが、次の一手に進めます。

※自社がどこに当てはまるかを整理するなら、まずは小さな市場テストから始めるのが最も合理的です。


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を、机上ではなく現地での実アプローチを通じて確認します。

売上を約束するサービスではありません。

その代わり、続けるべきか、今はやめるべきかを判断できる材料を提供します。

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