VinFastから学ぶ、ベトナムのマーケティング戦略

VinFastから学ぶ、ベトナムのマーケティング戦略
― なぜベトナムでは「まず高く、まず目立つ」戦略が機能するのか
かつて、ベトナムの街を走る車といえば日本車が中心でした。
耐久性、信頼性、コストパフォーマンス。
日本車は「安心して選べる選択肢」として、長く評価されてきました。
しかし近年、その風景は少しずつ変わり始めています。
背景にあるのは、ベトナム政府による脱炭素政策とEV(電気自動車)普及の流れです。
その象徴的な存在が、VinFast。
ベトナム最大級の財閥 Vingroup を母体とする、ベトナム初の国産自動車ブランドです。
VinFastの急成長は、単なるEVメーカーの成功事例ではありません。
そこには、ベトナム市場特有のマーケティング思想がはっきりと表れています。
1. VinFastは「最初から大衆車」を作らなかった
VinFastが市場に登場した2018年、
同社が最初に前面に出したのは、LUX A2.0(セダン)/LUX SA2.0(SUV) といった高級路線の車両でした。
ここが重要なポイントです。
日本であれば、
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まず安価で高品質な車を普及させる
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信頼を獲得してから上位モデルへ
という順番を取ることが一般的です。
しかしVinFastは逆でした。
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まず「高級車を作れる国になった」という象徴を作る
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一部の富裕層・影響力層に刺さる存在になる
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国産ブランドとしての誇り・話題性を確立する
最初に“憧れ”を作りに行ったのです。
これは、ベトナム市場では非常に理にかなった戦略です。
品質や価格以前に、
「これは特別なものだ」
「新しい時代の象徴だ」
という意味づけが、購入判断に大きく影響するからです。
2. ガソリン車を捨て、「EV一本」に振り切った覚悟
VinFastは2022年、ガソリン車(ICE)の生産を停止し、EVに完全シフトする方針を明確にしました。
この判断は、技術的・経営的に見ればリスクも大きい。
しかしマーケティングの観点では、極めて分かりやすいメッセージでした。
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ベトナム政府のグリーン政策と方向性を揃える
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「中途半端にやらない」という本気度を示す
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国産EV=VinFast、という物語を作る
ベトナムでは、一貫したストーリーを持つ企業が強い。
細かな仕様や完成度以上に、
「どこに向かっている会社なのか」
が評価される市場でもあります。
3. EVを売る前に、「EVに乗る日常」を作った
EV普及の最大の障壁は、性能ではありません。
多くの場合、
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充電が不安
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実際の使い勝手が分からない
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本当に大丈夫なのか想像できない
という体験不足です。
VinFast陣営は、この壁を広告で壊そうとはしませんでした。
代わりに選んだのが、体験そのものを街に埋め込む方法です。

Xanh SM(電動タクシー)の展開
2023年、Vingroup系のGSM(Green & Smart Mobility)は、
純EVタクシー「Xanh SM」をスタートさせました。
これは単なる新しいタクシー会社ではありません。
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街中で毎日EVに乗る機会を作る
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静かさ・乗り心地・加速を“説明なし”で体験させる
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EVを「特別なもの」から「見慣れたもの」に変える
つまり、EVを売る前に、EVを当たり前にしたのです。
この「体験インフラ化」は、ベトナム市場におけるマーケティングとして非常に強力でした。
4. 普及フェーズでは「現実的な価格帯」へ降りてくる
ブランドと体験が十分に浸透した段階で、
VinFastはようやく大衆市場に向けて価格帯を下げてきます。
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VF 5:ベトナム国内向けの普及EV
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VF 3:小型・低価格帯を狙ったミニEV
ここで重要なのは、
「最初から安かったわけではない」
という点です。
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高級路線でブランドを作り
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EV体験を街に広げ
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その上で、現実的な価格帯に降りてきた
この順番だからこそ、価格が“安い”ではなく、“納得できる”ものになります。
また、VF 3 のような小型EVは、
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路地の多い都市構造
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若年層のライフスタイル
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色・カスタマイズを楽しむ文化
といった、ベトナム特有の生活導線にも合致しています。
5. 海外では失敗も起きている。それでも学ぶ価値がある理由
一方で、VinFastは海外市場、とくに米国では品質・安全面での課題やリコールも経験しています。
これは重要な示唆です。
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ベトナム国内で勝つ設計
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先進国市場で勝つ設計
この2つは、同じでは通用しない。
しかし逆に言えば、VinFastは「まず国内で勝つ」ための設計を徹底した、極めてベトナム的な成功例だとも言えます。
日本企業がベトナムで
「高い」と言われて終わらないための、付加価値設計3ステップ
ここからは、VinFastの事例を日本企業がベトナム市場で応用するための実務視点に落とします。
STEP 1|まず「高く見せる理由」を意図的に作る
(機能より、意味を先に設計する)
日本企業は、最初からこう説明しがちです。
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高品質
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長持ち
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コスパが良い
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日本では一般向け
しかしベトナムでは、これだけでは弱い。
必要なのは、
「なぜこれは特別なのか」という意味づけです。
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誰の誇りになる商品か
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どんな人が持つことで語りたくなるか
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ベトナムの文脈で“上”に見える理由は何か
性能説明は後でいい。
まずは“価値の物語”を作ることが先決です。
STEP 2|広告より先に「体験」をばらまく
(買わせる前に、使わせる)
ベトナムでは
理解してから買うより使ってから納得する方が圧倒的に多い。
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試用
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デモ
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実際の現場での使用
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使っている人を見せる
VinFastのXanh SMと同じく、体験を“個別施策”ではなく導線として設計する必要があります。
STEP 3|最後に「現実的な価格帯」へ降りる
(最初から全員を狙わない)
最初から大衆市場を狙うと、結局「高い」で終わります。
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まず一部に刺す
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次に見慣れた存在にする
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それから価格を下げて広げる
この順番を守ることで、価格は障壁ではなく、選択理由になります。
では、日本企業はどう実行すればいいのか
理屈は分かっても、これを机上で設計するのは困難です。
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本当に刺さる価値は何か
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「高い」が「納得」に変わるラインはどこか
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続けるべきか、やめるべきか
これらは、現地で試さなければ分かりません。
NKCの「90日市場検証」は、売るためのサービスではありません
NKCが提供している「90日市場検証」は、売上を約束するサービスではありません。
目的はただ一つ。
その商品・サービスは、
ベトナム市場で続ける価値があるのかを判断すること
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現地視点での価値仮説整理
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表現・価格・導線の実地テスト
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ベトナム人の生の反応収集
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「高い」と言われた理由の分解
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継続/修正/撤退の判断材料化
売れなければ、「売れない」と正直にお伝えします。
最後に
ベトナム市場は、
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やらなければ分からない
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しかし、やり続けると高くつく
という難しさがあります。
だからこそ、小さく試し、早く判断する。
VinFastのような国家プロジェクト型企業でなくても、現実的に取れる選択肢があります。


